7月4日 AJEQ研究会報告 (7/12) 日時:7月4日(土)16:00-18:30
場所:立教大学1号館1201教室
1 矢頭典枝(神田外語大学)、古地順一郎(北海道教育大学)
「2015年度AJEQ大会ワークショップ勉強会:州民投票から20年―ケベック内政を振り返る」
2 河野美奈子(立教大学大学院)、佐々木菜緒(明治大学大学院)
「人を殺すまで—A. エベールとM. デュラスの文学作品に転化された実在事件に関する比較研究」
1.矢頭会員・古地会員の発表 この発表は、2015年度AJEQ大会で予定されているワークショップ「州民投票から20年ーケベック内政を振り返る」の勉強会を兼ねたものであった。
まずはじめに、矢頭会員より、1995年の州民投票に至る過程の歴史が紹介された。1995年のケベックの主権を問う州民投票では投票率が93%と高く、ケベックの人々の関心が非常に高かったとの指摘があった。また、1995年の州民投票に至った過程として、1982年のカナダ憲法への署名をケベックが拒否したこと、1987年のミーチレーク合意や1992年のシャーロットタウン合意が廃案になったことなどを背景に、ケベックが主権を主張する機運が非常に高まっていたことが詳しく説明された。また、当時のケベック党のブシャール党首によるケベックの主権構想やカナダとのパートナーシップ構想などについて説明がなされた。
続いての古地会員の発表では、最新のケベックについてのニュースをもとに、州民投票から20年経ったケベックの政治的状況が説明された。まずは、近年のケベックの状況として、ケベック党のぺラドー党首とケベック連合のデュセップ党首のそれぞれの主張が紹介された。また、州民投票以降の「ケベック主権」支持率の調査について、反対派が賛成派を上回っている状態が続いているとの説明があった。さらに今後は、急進派が後退していくことが予想されること、そして左右共同戦線の状態が築けるかど
うかが注目されるとの指摘があった。また、ケベックの人々のアイデンティティに関して、より包摂的な言説が展開されるかどうかも注視していきたいとのことであった。

2.河野会員・佐々木会員の発表 この発表は、ケベック生まれの作家アンヌ・エベールと仏領インドシナ生まれのマルグリット・デュラスの作品において実在の事件をもとにした小説を比較分析したものであった。
はじめに、佐々木会員によるアンヌ・エベールの作品『シロカツオドリ』についての分析があった。まず、この作品で起こる事件と、実際に1933年にケベックで起こった「アズカー事件」と呼ばれる二人の少女が行方不明になった事件についての類似点と相違点が検証された。そこから、実在の殺害事件をもとにつくられたエベールの作品は、何が「人を殺す」という行為に至らせたのかが重要な要素となっているとの指摘があった。
続いて、河野会員によるデュラスの『ヴィオルヌの犯罪』の分析があった。まず、実際に起こった様々な事件とデュラスの作家活動の関係が時系列に沿ってまとめられた。その上で、1949年におこった「ラビュー事件」とデュラスの作品『ヴィオルヌの犯罪』が比較検証された。またこの作品の背景として、デュラスが犯罪を書くということに対してどのような立場を取っていたかが、インタビューなどをもとに分析された。
最後にこの比較研究のまとめとして、三面記事をもとに文学作品を描く二人の女性作家についての比較検討がなされた。エベールの方は社会的一面を描き、デュラスの方は人間の内面の普遍性を描こうとしているのではないか、との指摘がなされた。


(文責・写真撮影 : 山出裕子)