11月28日 AJEQ研究会報告(11/28)
日時:11月28日(土)16:00~18:30
場所:立教大学 5号館 5126教室
1 佐々木菜緒・仲村愛(明治大学大学院)
「静かな革命前後のケベック人意識:文芸雑誌にみるネイション意識と過去」
2 片山幹生(早稲田大学)
「現代ケベック演劇の日本公演について:ブシャール、ムワワド、ルパージュの三人の劇作家の作品を中心に」
1 佐々木菜緒会員・仲村愛会員の発表本発表では、ケベックにおける「静かな革命」の意味と「ネイション意識」の変容を文芸雑誌を通して明らかにする第一歩として、「静かな革命」という代名詞の由来の再考、および研究対象とする3つの雑誌の要旨について報告を行った。
まず、「静かな革命」という表現は、最初にGlobe and Mailの記者が記事の中で使用したのが起源という通説には根拠がなく、それより以前の1950年代から、特にアメリカで様々な意味でよく用いられていたことが明らかにされた。
次に、ケベック史における転換点の1950~70年代を代表する3誌(Cité libre, Liberté, Parti pris)の概要が説明され、なかでもParti pris誌が短命であったにもかかわらず(1963~68年)、特に「政治革命」や「ネイション意識」を強調して政治的なアクションを主張したという意味で、重要な役割を果たしたことが指摘された。今後さらに研究を進めて、所期の目的の達成を目指すとのことであった。
質疑応答では、Parti pris誌がどのような形で終息し、解消されたのかを詳しく研究することが、その後の政治運動やネイション意識の変容についてヒントを与えてくれるのではないかといった意見などが出された。

2 片山幹生会員の発表本発表では、ケベック出身の3名の劇作家(ロベール・ルパージュ、ワジディ・ムワワド、ミシェル=マルク・ブシャール)について、最近5年ほどの間に日本で公演された作品を紹介して、ケベックの演劇の特色と貢献を探ることが試みられた。
日本で最も有名なルパージュについては、最新の作品『針とアヘン』を紹介しつつ、ポリグラフの使用の巧みさなどを評価する一方で、彼のようにビジュアルな面を強調して言語の壁を乗り越えたことがケベック演劇の特色であるかのような説には賛同できないとのことであった。
むしろ、ムワワドや特にブシャールの作品に見られるような、フランス語の伝統や古典への回帰、およびその新しい可能性の追求が、より重要なケベック演劇の貢献とも考えられる。それは80年代以降、フランスよりはケベックで見るべき劇作家と演劇が出てきていることを象徴しているというのが結論であった。
質疑応答では、取り上げられた三者の作風はそれぞれ非常に異なるものであり、そのことがケベック演劇の幅広さと奥深さを示しているのではないかという指摘などがあった。


(文責・写真撮影:宮尾尊弘)