7月2日AJEQ研究会報告 Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ(7/3、7/11改訂)
AJEQ研究会
日時:2016年7月2日(土)16:00~18:10
場所:立教大学 本館(1号館)2階1204教室
<プログラム>
第1発表:井村まなみ会員(群馬県立女子大学)
「
Tom à la ferme (Xavier Dolan)の詩的なもの:整合性と整合性で捉えられないもの」
第2発表:伊達聖伸会員(上智大学)
「フェルナン・デュモン『記憶の未来』を読む」
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井村まなみ会員の発表についての報告「
Tom à la ferme (Xavier Dolan)の詩的なもの:整合性と整合性で捉えられないもの」(井村まなみ)
Michel Marc Bouchardによる同名の戯曲(2010年)をもとにつくられた、Xavier Dolan の映画
Tom à la ferme (2013年)についての報告である。制作者側の解説は、同性愛にまつわる禁忌と偏見(ブシャール)、「恋人を救えなかった罪悪感から、暴力と不寛容のなかでストックホルム症候群に陥ってゆく主人公の物語」(ドラン)とあるように、もっぱら内容面に関わるのに対して、構成面からの理解が目的である。まず、整合性で説明できるモチーフとテーマ―直進と旋回の枠組み、車と牛の対称性、出発と喪のテーマの繰り返し―を整理した。特に、戯曲のシナリオを映画用に練り直している点、両者の比較に力点を置いた。ブシャールが限られた空間で展開するために言語の特性を駆使するなら、ドランはそれらを映像で支えながら、さらに発展させることで成功しているのである。
発表では次に、整合性では捉えられないもの、言語でも映像でも表わし難いことを浮かび上がらせようと試み、詩的なものとの関連を指摘した。
スクリーンに映像を映しながらの報告であり、報告後、会場からは活発な意見と質問をいただいた。この作品の持つ豊かさを改めて知ることになり、今後考察を深めるための指針としたい。
伊達聖伸会員の発表についての報告「フェルナン・デュモン『記憶の未来』を読む」(伊達聖伸)
5月末に拙訳でフェルナン・デュモン『記憶の未来――伝統の解体と再生』(白水社、2016年)が刊行された。
本発表は、本書の概要を紹介し、訳者なりに重要と思われる論点をいくつか紹介したもので、会場との質疑応答になるべく多くの時間を費やすことを意識した。
「私たちの社会が未来を前にして無力になったのだとしたら、それは私たちの社会が記憶を失ったことに原因があるのではないか」。
この問いを前に、デュモンは現代社会においては慣習の解体が起こっているが、それは必ずしも伝統の解体ではないと論を進める。
記憶の危機は転じて好機にしうるものでもあり、著者はその希望を学校とデモクラシーに託す。
論点として挙げたのは、1)記憶喪失に抗して、歴史の果たすべき役割、2)人文科学の危機に抗して、学校の果たすべき役割、3)「デモクラシーに固有の専制」(トクヴィル)に抗して、「たえず再興すべき伝統」としてのデモクラシーをいかに構築するか、の3点である。
会場からは、記憶というテーマをめぐるケベックの特殊性と普遍性、フランス本国とその他のフランス語圏の国や地域の違い、国民的記憶のレフェランスとなるものの特徴などについて、いろいろな角度から質問やコメントをいただいた。
訳者としては、本書は反時代的なアクチュアリティを持つもので、現代の日本にとっても意味のあるものだと思う。お手に取っていただければ幸いである。
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写真:
井村まなみ会員の発表の様子

伊達聖伸会員の発表の様子

フェルナン・デュモン『記憶の未来』の表紙

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